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五代目工藤會の経歴その⑤。市民への襲撃事件を長年に渡って繰り返す、九州最大級の暴力団である工藤會に対し、警察は壊滅作戦を実施。ついに野村四代目を逮捕した。裁判では野村四代目の指揮命令があったとして、死刑判決が下された。


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工藤會壊滅作戦、野村四代目を逮捕

2014年09月、福岡県警は史上最大級の特別捜査本部となる、工藤會関連事件特別捜査本部を設置し、工藤會への頂上作戦に着手。工藤會壊滅作戦の幕が切って落とされた。

2014年09月11日、福岡県警は野村四代目を逮捕。1998年02月に元漁協組合長の梶原国弘が銃撃されて亡くなった事件に関与したという容疑だった。

その2日後には同じ元漁協組合長銃撃事件で田上五代目も逮捕した。田上五代目はこの事件で2002年に逮捕され、不起訴となっていたが、警察は一度不起訴になった事件で再び逮捕するという奇策に打って出た。

野村四代目の逮捕を受け、福岡県警の樋口真人本部長は「警察捜査への切なる願いと期待を受け止め、鋭意捜査してきた。警察はテロ行為と言うべき凶悪事件の全容解明に向け、実行犯、首謀者を徹底的に追い詰める。工藤会の壊滅に向け、不退転の決意で臨む」

「田中組を中心とする工藤会。このような組織にいつまでもすがり、一部の幹部に翻弄され、自分の人生、そして家族の人生を棒に振ることはありません。自分の将来を、そして家族を大切にして、更生の道を歩もうとする者は、県警察に、あるいは暴追センターに相談してほしいと思います。待っています」とコメントし、組員の離脱を促した。

その後、野村四代目は看護師刺傷事件、歯科医師刺傷事件、元警部銃撃事件、脱税事件の容疑で再逮捕され、計6回逮捕されることとなった。通信傍受で入手した電話の通話内容が逮捕の決め手になった事件もあるという。

福岡地裁は野村四代目と田上五代目を接見禁止とし、証拠隠滅や口裏合わせなどを封じ込める対策を取った。検察側は暴力団の捜査や公判に通じた精鋭を次々と福岡地検に投入。野村四代目らの公判に備えて万全の体制を整えた。

2015年末までに、福岡県警は工藤會の組員ら98人を逮捕。工藤會は野村四代目や田上五代目の他、菊池啓吾理事長や木村博理事長代行など、最高幹部の殆どが逮捕され、野村四代目らの出身母体である傘下の五代目田中組も、執行部のほぼ全員が逮捕されたとみられている。

逮捕された野村四代目らに見切りをつけたのか、逮捕された複数の組員が警察の取り調べで自供したり、捜査に協力する関係者も増えて行った。

2015年06月、警察庁の金高雅仁長官は「組織のトップを死刑や無期懲役に持って行き、二度と組に戻れない状態を作り、恐怖による内部支配を崩していこうという戦略。徹底した捜査を遂げるということで臨んでいる」と延べ、野村四代目に極刑の適用を望んだ。

2015年12月、福岡国税局は野村四代目が2008~2014年の間に所得税約5億5000万円を納めていなかったとして、野村四代目に重加算税などを追徴課税し、約8億円を差し押さえた。

2017年01月、警察庁の坂口正芳長官は北九州市を視察し、工藤會が関わったとみられる未解決事件の解決や、資金源の切り崩しなど、工藤會への取り締まりのさらなる強化を指示した。



上納金の脱税事件で有罪判決

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上納金脱税事件は、2010~2014年に建設業者などから集めた上納金から得た、約8億1000万円にも及ぶ野村四代目の個人所得を、他人名義の口座で管理するなどして隠し、所得税約3億2000万年の支払いを免れ、脱税した事件。

2017年10月、脱税事件に問われた野村四代目の初公判が開かれ、野村四代目は「私の所得と言われたものは、私のものではありません」などと延べ、無罪を主張した。

2018年07月、野村四代目の判決公判が開かれ、裁判長は懲役3年・罰金8000万円(求刑懲役4年・罰金1億円)の判決を下した。裁判長は「野村被告の収入は工藤会の威力を背景に建設業者などから継続的に供与された上納金に由来し、悪質だ」などと述べた。

2020年02月、野村四代目の二審の判決公判が開かれ、裁判長は野村四代目の控訴を棄却した。

2021年02月、野村四代目の最高裁での判決公判が開かれ、裁判長は野村四代目の上告を棄却した。これにより野村四代目は懲役3年・罰金8000万円の有罪判決が確定した。

建設業者などから集めた上納金の資金配分を見たという工藤會の元関係者の証言によると、前総裁に3割、野村四代目に3割、他の幹部らに3割、工藤會に1割という形で分配されていたという。野村四代目は得た利益で愛人のマンションを購入したり、親族の生活費に充てるなど、私的に使っていたという。

この事件では、金庫番の工藤會幹部にも実刑判決が確定している。



元漁協組合長銃撃事件など4つの事件

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元漁協組合長銃撃事件は、1998年02月に北九州市小倉北区の路上で、元漁協組合長の梶原国弘さん(70)が銃撃され、頭や胸などに4発が命中して亡くなった事件。

梶原さんは北九州市の港湾整備公共事業を巡り、工藤會からたびたび恫喝の電話が掛かって来たり、親族が襲撃されるなどの事件も起こったが、工藤會の利権介入を拒んでいたという。港湾整備公共事業への利権介入を断られたことへの報復が、事件の背景にあるとみられている。

この事件では2002年に田上五代目ら4人が逮捕され、田上五代目は一度不起訴となり、実行犯ら幹部2人には無期懲役と懲役20年、1人に無罪判決が確定している。

看護師刺傷事件は、2013年01月に福岡市博多区の路上で、看護師(45)が頭などを刃物で刺され、約3週間のケガを負った事件。

野村四代目は被害者の看護師が勤務する北九州市にある美容整形クリニックで、局部の脱毛施術と性器の増大手術を受けていたが、炎症を起こすなど術後の経過が思わしくなかったという。被害者の看護師から「入れ墨に比べたら痛くないでしょ」と言われたなどのことが、事件の背景にあるとみられている。

この事件では2014年に野村四代目らを含む14人が起訴され、実行犯や送迎役らの実刑が確定している。

元福岡県警警部銃撃事件は、2012年04月に北九州市小倉南区の路上で、元福岡県警警部の男性(61)が銃撃され、左足などに命中して重傷を負った事件。

元警部は30年以上も工藤會の捜査を担当し、2011年春に退職していた。元警部は現職時代に工藤會の組員らと会った時に、野村四代目を呼び捨てにし、「野村は(個人で)20億円持っている」などと発言しており、それらが野村四代目に伝わったことなどが、事件の背景にあるとみられている。

この事件では2015年07月に野村四代目らを含む11人が起訴され、実行犯らの実刑判決が確定している。

歯科医師刺傷事件は、2014年05月に北九州市小倉北区の駐車場で、歯科医師の男性(29)が足や腹などを刃物で刺され、重傷を負った事件。

被害者の歯科医師の男性の祖父は、1998年に亡くなった元漁業組合長の梶原さんで、梶原さんの弟の漁協組合長も2013年に銃撃されて亡くなっていた。港湾工事に影響力を持つ梶原さん一族を屈服させようとしたことが、事件の背景にあるとみられている。

この事件では2015年05月に野村四代目らを含む7人が起訴され、送迎役などに実刑判決が言い渡されている。

これらの事件で、野村四代目と田上五代目が犯行を指示したという直接的な証拠が無いため、検察は通信傍受などで得た音声や、元組員らの証言などを基に間接証拠を積み上げ、野村四代目らの指揮命令や共謀があったのかどうかを立証することとなる。



野村四代目らは無罪を主張

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2019年10月、元漁協組合長銃撃事件、看護師刺傷事件、歯科医師刺傷事件、元福岡県警警部銃撃事件の4つの事件に問われた、野村四代目と田上五代目の初公判が開かれ、野村四代目は「私は4つの事件すべてにつき無罪です」、田上五代目は「全く関与していません」と述べ、無罪を主張した。

野村四代目と田上五代目の公判は、裁判員らに危害が及ぶ恐れがあるとして裁判員裁判の対象から除外され、2021年03月まで62回行われた。

検察側と弁護側あわせて、元組員や福岡県警の捜査員ら延べ91人の証人が出廷。証人は別室から音声と映像を法廷に届ける『ビデオリンク』を使用し、福岡県警は保護対策室を中心に約100人の体制で、証人の身辺警護を徹底した。

2016年05月、野村四代目らが起訴されたのとは別の発砲事件で、裁判員を務めていた女性2人に「あんたら裁判員やろ。顔は覚えとるけね。よろしくね」などと声を掛け、威迫したとして工藤會の元組員らが逮捕された。

2017年12月、工藤會系幹部が検察側の証人として出廷したが、幹部は証言拒否を繰り返し、福岡地裁が5万円の過料を命じることもあった。

2020年08月には証人として出廷する男性に対し、野村四代目らに不利な証言をしないよう威圧したとして、工藤會系組長が逮捕される事件も起こっていた。

検察側は『工藤会は国家に反逆し、国民の安全を脅かしたテロ組織』という視点に立って工藤會を断罪。指揮命令系統の立証のため、通信傍受で入手した80回以上もの通話の会話内容を証拠として提出し、2時間以上の音声を法廷で流した。

審理が終了した2020年09月、野村四代目と田上五代目の接見禁止が解除された。これにより、六代目山口組の髙山清司若頭、住吉会の関功会長、道仁会の小林哲治会長など、指定暴力団のトップや最高幹部らが面会に訪れ、工藤會の幹部らも次々と面会をした。

2021年01月、野村四代目と田上五代目の論告求刑公判で、検察側は「暴力団であることを顕示し、組織的に行われた犯行であり、上位者の意思決定が必要不可欠。野村被告が意思決定を行い、田上被告が組員を率いて実行した。人命軽視の程度が甚だしく、社会に対する影響も大きい」などとして、野村四代目に死刑、田上五代目に無期懲役と罰金2000万円を求刑した。

2021年03月、野村四代目と田上五代目の最終意見陳述で、野村四代目は「私はどの事件にも一切関わりありませんし、指示をしたことも、承諾したこともありません。私は無罪です。裁判所が公正な判断をして下さることを希望いたします」と述べた。

田上五代目は「どの事件に関しても、私が関与した事は全くありません。裁判で検察側とやり取りしてきましたが、余りにもひどい、ずさんな裁判だなと思っております。裁判所には、真っすぐな目で証拠に照らして的確な判断を願いたい」と述べた。

弁護側は最終弁論で「検察の主張は証拠の無いことを無理やり膨らせたもので、根拠が無い。間接証拠の評価が極めて恣意的で、強引に両被告と結びつけるために他の合理的な仮説を考慮せず、独善的な推認に終始している。検察官の妄想に過ぎない」などと主張し、裁判は結審した。



そして、死刑判決へ

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2021年08月24日、野村四代目と田上五代目の判決公判が開かれた。裁判長は主文を後回しとし、200ページを超える長文の論告要旨を読み上げた。10時から始まった公判は16時近くまで続き、途中に休憩が挟まれる長丁場となった。

裁判長は論告要旨を読み終えた後、求刑通り野村四代目に死刑、田上五代目に無期懲役・罰金2000万円の判決を下した。裁判長は4つの事件の全てで野村四代目と実行役の共謀があったとし、3つの事件で野村四代目の指揮命令系統に基づく犯行であると認定した。

指定暴力団のトップに死刑判決が下されるのは、日本の刑事裁判史上初のこととなった。

判決を受けた野村四代目は「公正な判断をお願いしたけど、全然公正じゃないね。こんな裁判があるか。全部、推認、推認。公正ではない。あんた、生涯このこと後悔するよ」、田上会長は「なんやこの裁判は。裁判官やなくて検察官やね。ひどいなあんた、足立さん(裁判長の名前)。恥ずかしくないの。東京の裁判官になって良かったね」と発言。

この発言は裁判官への脅しとも取れる内容で、組員による報復行為が懸念される事態となった。福岡地裁は野村四代目と田上五代目を再び接見禁止とし、福岡県警は担当の裁判官や証人らの保護対策を徹底するよう通知した。

野村四代目の死刑判決後、北九州市の北橋健治市長は「本市では一時期、暴力団によると思われる、市民や企業を標的にした卑劣な事件が相次ぎ、大きな不安が広がり緊張が高まっていた。長年にわたる暴力追放運動の大きな節目になる。今後も手綱を緩めることなく『日本トップクラスの安全なまち』を目指して全力で取り組む」などとコメント。

福岡地検は「主張がおおむね認められた」とコメントし、福岡県警の野村護本部長は「(工藤會の組員は)判決を区切りとして勇気を持って工藤会と決別し、更生の道を歩んで欲しい」とコメントした。

警察庁の松本光弘長官は、「判決は一つの節目だと思うが、警察としては工藤会の壊滅に向け諸対策をさらに推進していく」と述べ、工藤會の壊滅をさらに進めていく決意を表明した。

今回の裁判の他、工藤會の組員らに襲撃された事件の被害者などが、野村四代目に損害賠償を求める訴訟も多数起こされており、野村四代目らに数1000万円の支払いを命じる判決なども下されている。

この他、多数の工藤會幹部らにも様々な事件で実刑判決が下されていて、工藤會のスポークスマンとしてメディアに出演していた木村博理事長代行(元幹事長)は無期懲役が確定している。

野村四代目と田上五代目は、判決を不服として福岡高裁に控訴。野村四代目らの裁判は控訴審にて引き継がれることとなった。



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