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2021年09月、暴力団をテーマとした著書を多数発売している、ジャーナリストの鈴木智彦さんが、鈴木さんの記事で名誉を毀損されたとする経営者の男性に訴えられ、敗訴した。

経営者の男性は、自身を元組員だとする偽の破門状を暴力団にばら撒かれ、生活に支障をきたし、鈴木さんがその破門状を記事で取り上げたことで名誉毀損されたと訴えていた。

鈴木さんは約30年にわたって暴力団を取材しており、実話系雑誌『実話時代BULL』編集長を務めるなど、暴力団取材ジャーナリストのニューリーダーの一人。主な著書に『我が一家全員死刑』、『潜入ルポ  ヤクザの修羅場』、『ヤクザと原発  福島第一潜入記』、『サカナとヤクザ』、『ヤクザ2000人に会いました!』などがあり、『我が一家全員死刑』は映画『全員死刑』の原作にもなっている。

その後、2022年08月に大阪高裁で鈴木さんは逆転勝訴し、2023年02月に最高裁で上告が棄却され、鈴木さんの勝訴が確定した。


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鈴木智彦さんが破門状に載った人物を取り上げる

鈴木智彦さんが、2017年11月発売の週刊誌『週刊ポスト』2017年12月8日号で、六代目山口組『淡海一家』から出されたとみられる破門状に記されている、元組員4人のうちHさんについての記事を載せた。

鈴木智彦さんの記事を要約すると

  • 京都の事業家は「Hさんは京都では名の知れた実業家で、複数の会社を経営している。関西の政治家や芸能人と交流があり、京都市の門川大作市長と一緒に写った写真が市長のブログに載せられている」と話した。
  • 京都市に問い合わせると「破門状の件で地元の新聞社からも問い合わせがあり、我々としては非常に迷惑。元組員は我々はどういう方か全く存じ上げていなかった。今後は面会と紹介については気をつける」と回答があった。
  • Hさんがオーナーだったレストラングループは、国会記者会館や高等裁判所や総務省や町田市役所などに食堂を出店している。官公庁の施設が、暴力団の資金源になっていた可能性さえある。
  • 淡海一家の関係者は「Hは淡海一家の高山義友希総長がヤクザになる約1年前に盃を交わした」と話した。

という主旨の内容で、鈴木智彦さんが本人のHさんに取材をすると、Hさんは

  • 自分が暴力団組員だった事実は絶対にない。破門状は私に恨みを持っている人間が出した怪文書。
  • 高山さんと昔は仲が良かったのは確か。知り合いにいきなり(料亭に)連れて行かれて『形だけだから酒を飲もう』と言われ、盃の真似事をしたことはある。騙し討ちの盃だ。
  • そもそも、当時は高山さんもヤクザになる前でカタギ。カタギの舎弟になったところで(暴力団員という)理屈は成立しない。
  • 10か月ほどいくらかお金を払って企業舎弟のようなことをしていたことはあるが、暴排条例の前、今はアウトになるからやっていない。

などと話したという。その後、Hさんの弁護人からの書面で

  • Hの人権を守るために、法的措置を講じ、すでに当該機関に受理され着手している。
  • Hは過去にも、現在も、淡海一家なる暴力団に帰属したことはない。
  • 京都府警の職員から『同組に所属した事実はない』旨の確認を頂いている。

という回答があったという。鈴木智彦さんは

  • Hさんが暴力団員だったのか否か、当事者の言い分は平行線だ。Hさんは「隠れヤクザ」だったのか、それとも「ヤクザに売られた」のか、真相を見極めるのは困難だ。

などとした。この週刊ポストに載った鈴木智彦さんの記事で波紋が広がって行く。


国会記者クラブの食堂が暴力団の資金源だった疑惑浮上
2017.11.27 16:00



Hさんが刑事告訴、淡海一家若頭ら逮捕

この破門状は、淡海一家若頭の名で2017年09月にHさんら計4人を破門したとする旨が記載されているもので、Hさんは2017年11月に名誉棄損罪及び偽計業務妨害罪を構成するとして、京都府警に刑事告訴した。

刑事告訴を受けて、Hさんらが最近まで淡海一家系組織に在籍していたとする偽の破門状を撒き、Hさんらの名誉を傷つけたとして、2018年01月に淡海一家若頭と会社経営者3人の計4人が、名誉毀損と偽計業務妨害の疑いで逮捕された。

淡海一家若頭らは、偽の破門状をHさんらの取引先である金融機関など27箇所に計36回にわたって郵送し、通信アプリ『LINE』でも偽の破門状の画像データを送信していたという。

その後、逮捕されていた淡海一家若頭ら3人は不起訴となり、会社社長1人だけが起訴された。会社社長には罰金50万円の判決が下されたとみられる。


「最近まで在籍」と嘘の破門状作成し郵送…名誉毀損容疑で暴力団幹部逮捕 京都府警
2018.1.31 20:23

(産経ニュース) http://www.sankei.com/west/news/180131/wst1801310102-n1.html

取引先に偽の破門状、業務妨害 京都、容疑で組員ら逮捕
2018年01月31日 21時50分

(京都新聞) http://kyoto-np.co.jp/politics/article/20180131000179



偽の破門状でHさんらに深刻な被害

この事件について、東京スポーツなどの記事によると

  • 虚偽の破門状のせいでHさんらの元には取引先などから問い合わせが殺到し、業務にも支障が出ているという。
  • Hさんらは「悪質なデマが広がったことで、商売だけでなく人間関係にも悪影響が出た。卑怯なやり口で人生をめちゃめちゃにされた」と話した。
  • Hさんらは「取引先の金融機関のほか、付き合いのある会社や知人など、ありとあらゆる関係先に偽の破門状をばらまかれた。問い合わせが殺到したことで被害に遭っていることに気づいた」と話した。
  • Hさんらは逮捕された会社社長3人に金を貸していて、返済してもらえなかったため、返済を求めて提訴したところ、逆恨みされて破門状に名前を書かれた被害者もいたという。
  • 会社社長3人が淡海一家若頭と結託し、嫌がらせのために破門状を作って回した。逮捕された中の一人は以前から怪文書を作って方々に回し、嫌がらせすることで有名な人物だったという。
  • 警察関係者は「恨みを持つ相手をおとしめる道具として暴排条例を悪用する輩がいる。暴排条例の施行以降、警察サイドもヤクザの組織内の把握が難しくなり、回状の真偽を確かめにくくなったこともトラブルが起きる要因の一つ」と話した。

など、Hさんらは偽の破門状で被害を受けたと話した。


ヤクザが一般人を陥れる手口に…ニセ破門状ばらまく、暴排条例の効力悪用 商売、人間関係に打撃
2018.2.19

(zakzak 夕刊フジ) https://www.zakzak.co.jp/soc/news/180219/soc1802190003-n1.html

業務妨害で組員ら4人逮捕 バラまかれた「ウソの破門状」
2018年02月21日 08時00分

(東スポweb) https://www.tokyo-sports.co.jp/nonsec/social/924457/



成田俊一さんがこの件を掘り下げる

ジャーナリストの成田俊一さんが、2018年03月発売の月刊誌『実話ドキュメント』2018年05月号と、2018年07月発売の週刊誌『週刊金曜日』1191号で、Hさんについての記事を載せた。

成田さんの記事を要約すると

  • Hさんの誕生日会に京都府の山田啓二知事が駆けつけ、一緒に写真を撮っている。
  • 写真を提供した人物は「元とはいえ、バリバリのヤクザだった男の誕生会だからといって、夜中に顔を出すなんて、どういう関係かわかるでしょ? この関係がバレたら大変なので、Hさんの破門状は偽物ということにしなければならなかったのではないか」と話した。
  • 淡海一家の関係者は「Hさんは淡海一家のれっきとした組員だった。淡海一家の看板で仕事をしていたのは間違いない。Hさんは高山総長の父の高山登久太郎四代目会津小鉄会会長が築いた利権や人脈を手にし、京都府警や役所と裏で繋がっているフィクサー気取り」と話した。
  • Hさんが経営する警備会社は、京都府警本部の新築工事の現場警備業務を受注し、京都府警のOBが天下りして副社長に就いている。問題はないのか。
  • 京都府警の「Hさんが淡海一家に在籍した事実は無い」という話は怪しい。Hさんが山田知事と親交があり、京都府警と癒着があることから、京都府警はHさんを庇うために過去を隠蔽し、破門状は偽物だということにしたのではないか。

という内容であった。Hさんの破門状は偽物だと思われたが、成田俊一さんが言及したことで、真相は分からなくなった。


暴力団破門状事件の深層 京都府警が過去を隠蔽した男
2018年7月24日5:08PM

(週刊金曜日) http://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/2018/07/24/kyotofukei1/



Hさんが提訴、出版社や成田俊一さんが敗訴

Hさんはこれらの記事で名誉を毀損されたとして、週刊金曜日を発行する『金曜日』と成田俊一さん、実話ドキュメントを発行する『ジェイズ・恵文社』、週刊ポストを発行する『小学館』と鈴木智彦さんを相手に3つの訴訟を起こし、それぞれ1億1000万円の損害賠償を求めて京都地裁に提訴した。

2020年09月、週刊金曜日を発行する『金曜日』と成田俊一さんに損害賠償を求めた裁判の判決公判が京都地裁で開かれ、裁判長は金曜日と成田俊一さんに連帯して110万円の支払いを命じた。

裁判長は『金曜日は、原告が淡海一家組員だったとする記事を成田俊一さんが執筆し、週刊金曜日に掲載して名誉を傷つけた。記事は原告と対立関係にある暴力団関係者らの一方的な供述に基づいている。原告は暴力団組員らと親交があったものの、元組員だったとの事実までは認められず、記事の内容は真実とは認められない』などとした。

2021年01月、実話ドキュメントを発行する『ジェイズ・恵文社』に損害賠償を求めた裁判の判決公判が京都地裁で開かれ、裁判長はジェイズ・恵文社に55万円の支払いを命じた。

裁判長は『ジェイズ・恵文社は、原告の男性が元暴力団組員だったとする記事を実話ドキュメントに掲載し、名誉を傷つけた。原告が暴力団組員だとする根拠の多くは原告に対して反感を持つ人らの供述であり、信用性が疑わしい。名誉を傷つけないよう注意すべき義務に違反し、原告の社会的評価を低下させた。記事の内容は真実とは認められない』などとした。

2つの裁判で、記事の内容が真実だとは認められなかったため、名誉毀損が成立。実話ドキュメントと週刊金曜日と成田俊一さんは敗訴した。


「暴力団員」と事実と異なる記事掲載 「週刊金曜日」発行会社らに賠償命令、京都地裁
2020年9月28日 22:14

(京都新聞) https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/367442

「元暴力団員」の記事に真実性なし 月刊誌に賠償命令
2021年1月26日 20:10



鈴木智彦さんも敗訴

2021年09月、週刊ポストを発行する『小学館』と鈴木智彦さんに損害賠償を求めた裁判の判決公判が京都地裁で開かれ、裁判長は小学館と鈴木智彦さんに連帯して110万円の支払いを命じた。

裁判長は『小学館は、原告が淡海一家組員だったとする記事を鈴木智彦さんが執筆し、週刊ポストに掲載して名誉を傷つけた。原告が元暴力団組員だとする根拠は、原告と利害関係のある人らの供述で、中立的でなく信用性が疑わしい。原告が暴力団組員と親交があったという点も、組員になる前の親交であり、原告が元組員であった事実までは認められず、記事の内容は真実とは認められない』などとした。


元暴力団との週刊ポスト記事「事実と認められず」 小学館側が敗訴 京都地裁
2021年9月30日 16:44


破門状を発端とする一連の出来事は、3つの訴訟でHさんが勝訴する結果となり、Hさんの破門状は1審判決で偽物だと認定されるに至ることとなった。



(追記)

鈴木智彦さんと小学館が逆転勝訴

1審の判決を不服として、双方が大阪地裁に控訴し、2022年08月、週刊ポストを発行する『小学館』と鈴木智彦さんに損害賠償を求めた裁判の、2審の判決公判が大阪高裁で開かれた。

裁判長は、名誉棄損には当たらないとして、原告のHさん側が求めていた損害賠償などの請求を棄却し、小学館と鈴木さんの1審敗訴を取り消す判決を言い渡した。これにより鈴木さん側は2審で逆転勝訴した。

Hさん側は2審の判決を不服として最高裁に上告したが、2023年02月、最高裁は上告を棄却し、鈴木さんと小学館の勝訴が確定した。



「週刊誌に『暴力団員』と書かれ名誉毀損」男性の上告棄却
2023年2月27日 17:54


当サイトで取り扱った、この件の前段となる『経営者を組員扱いし偽の破門状を関係先に送る、逮捕された4人のうち1人を起訴』の記事は、プライバシー侵害を理由に削除申請があったため、現在は削除しています。






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